人民元高が逆に中国経済のとどめを刺しかねない
       輸出低迷から壊滅、失業膨張、新卒の就労先は激減
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▼中国経済の近未来展望はますます暗くなった。
 アジアインフラ投資銀行などと他国の面倒をみる余裕をなくすのは時間の問題ではないのか。
理由を七つ列挙してみる。
 第一は通貨為替レートによる通貨戦争で、中国は負けが込んできたという意外な事実だ。
 通貨戦争という視点に立てば、中国人民元は三年前の日本円の立ち位置である。
 列強が通貨安競争を演じているときに日本だけがQEを実行しなかったため円高が続き、
日本企業は陸続と海外へ工場を移転させて国内景気を悪化さえ、失業者を増やした。白川日銀総裁は判断を間違えていたと批判が凄まじくあった。
 いま、米ドル高に引きつられて人民元も独歩高。1人民元は12円から、いまや20円。だから日本に旅行に来ても中国人が割安感を感じるという奇妙な景観も出現したのだ。
 しかし元高は同時に輸出競争力を失う。
 これにより外国企業は採算が合わなくなって「チャイナプラスワン」をスローガンに中国から撤退する。
 ますます中国は不況となり、失業が増える。2015年大学新卒は748万人、このうち150万人がいまだに就労先がない。北京の友人に聞くと、何のコネもない日本企業にも親が飛び込みで「息子を雇ってくれまいか」と聞きに来るそうな。
 国家統計局の発表する「失業率」は3-4%台である。これほどの出鱈目はない。農村から都会へ流れ込んだ流民は数千万人とされるが、みごとに失業統計に反映されていないのだ。
 
 第二に地方政府の債務が膨張してきたが、いっこうに解決のメドが立っていない。そればかりか、地方政府の一部に地方債権の起債を許可する有様である。地方債務の合計は320兆円、たぶん半分が不良債権かするだろう。
 くわえてシャドーバンキングならびに理財商品の償還期を迎えており、中国の債務総額はGDPの282%で、日本より悪いのだ。

▼中国国内の銀行が経営状態が悪化しているのに?
 第三に銀行の機構的再編の遅れ、機能不全、銀行倒産という悲惨な状態が出現した。銀行取り騒ぎが起きないのは「国家総動員法」により軍が出動できるからだ。
中国国内の銀行が経営状態が悪化しているにもかかわらず、対外的にAIIB設立してカネを貸しますとうのは整合性のある話ではない。

 第四に不動産バブルの破裂がいまや誰の目にも明らか、中国語の新聞は連日、こちらの深刻さを取り上げている。
  「庶民の夢」だったマンション購入は高嶺の花となり、もはや手が出ないというのに、他方でも豪華マンションが林立し、しかも誰も住まないゴーストタウン(鬼城)化している矛盾、これこそが一党独裁の社会主義国家が唱える「社会主義的市場経済」のなれの果てなのだが、その惨状を素直に直視できない(不忍直視)、夜は漆黒の闇と化け(夜晩黒漆漆)、これまでGDPの48%が投資、とくに12&が不動産といわれたのだが、その高度成長の牽引車が壊滅状態にある。

 第五に富の偏在、技術の偏在、沿岸部への工業変調による人口動態に異様な動きが出ていることである。
 英BBC中国語サイト(4月4日)に拠れば、 中国の資産5億元(約100億円)以上の富裕層はおよそ1万7000人いる。総資産額は31兆元(約620兆円)。この数字は中国の国内総生産(GDP)63兆6500億元(約1273兆円)の半分に相当する。
 民生銀行と胡潤研究院が発表した「2014~2015年中国超富裕層の需要調査研究報告書」に従うと、中国の超富裕層の84%は男性で、平均年齢は51歳である。
 地域別では北京市、広東省、上海市、浙江省に集中し、所有する企業は製造業が全体の25%近くを占め、次いで不動産業、TMT(科学技術、メディア、通信産業)、サービス業、投資、重工業、製薬業、エネルギーの順番という。
 しかし超富裕層は汚職や横領の代名詞でもあり、「大富豪ランキング」に登場したとたんに逮捕され、死刑になった富豪もいる。大富豪ランキングは「死のランキング」とも呼ばれている。

 ▼庶民は社会福祉、生活保護、医療保険とまったく無縁である
 第六にこれほどの金満国家となっているのに社会福祉、生活保護、医療制度は問題だらけ、特権階級のみが社会福祉制度の恩恵にもあずかれるが庶民は蚊帳の外である。
 したがって民衆の党幹部への恨みは深く、こうした所得格差をすこしでも少なくしない限り、庶民、農民の一揆、暴力的抗議運動が納まることはないだろう。

第七に根絶できない腐敗の問題である。
 習近平が贅沢を禁止したため、ホテルやレストラン、豪華リゾートなど客足が途絶えた。有名レストランでも従業員の給与が支払えず休店に追い込まれ、豪華ホテルでも首切りが横行しはじめた。有名ブランド品も売れ行きはばったりと止まり、撤退か店舗縮小に踏み切ったところもでてきた。
 習近平の「虎も蠅も」という反腐敗キャンペーンは、かなりの大物を血祭りに上げ、庶民の拍手喝采をあびたものの、本物の「大虎」は野放しであり、結局の所、江沢民、李鵬、曽慶紅などを逮捕しないと、庶民の不満は収まらないだろう。
 それでなくともPPIは連続35ヶ月も下落しており、「住宅ローンを組んだ人の99%は破産するだろう」と預言して香港の著名エコノミストの朗喊平は「いかなる政策を断続的に維持し、かろうじて低成長を持続させることは不可能である」とし、市場の改革とは政治改革がなければ実現しない。習近平の唱える「新常態」は新しい南巡講話でとして機能しなければ意味がない」と獅子吼している。
 庶民レベルの経済感覚と見通しを聞いても、希望に満ちた明るい展望がきかれることはなくなった。
 こうした惨状の中国へ周回遅れで投資を拡大するドイツって、やっぱり神経がおかしいか、別の思惑が動機であろう。
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」通算第4511号平成27年4月8日(水曜日)



(読者の声1)貴誌を拝読しながら、日本の主要メディアとの論調とまるで異なり、目から鱗のことが多多あります。とくに直近の話題は中国主導のAIIBです。英国が参加表明をすると、ドイツ、フランス、イタリアなどがドミノ現象のように参加を表明し、くっきりと米国の意向に逆らいました。
 この背景には欧米摩擦、ウクライナ問題の温度差のほかに何かもっと決定的な要素があるのではないのですか?
  (JJセブン)


(宮崎正弘のコメント)もうひとつ、大きな要素は中国の対欧州投資です。中国化工がイタリアのタイヤメーカー「ピレリ」を買収しました。巨額です。
 じつは2013年に中国がなした対欧投資は90億ドル、それが2014年には二倍の180億ドルに膨らみました。
そして2015年は第一四半期だけで96億ドルです。このうち七つの大型プロジェクトだけで73億ドルを投じると発表され、欧州各国には目の色を変えています。AIIBへの参加は、彼らこそ「バスに乗り遅れるな」という焦燥感の表れでしょう。
 中国の札束外交攻勢にアジア・アフリカ諸国ばかりか、欧州もきわめて弱いという現実です。またユーロが対人民元レートで弱くなり1ユーロ=7が、いま6・7となり中国が強気の投資を続行できる。欧州26ヶ国と中国は既に投資協定個々に締結しています。
☆【中国】AIIBは世界に混乱と紛争をばら撒く

◎アジアインフラ投資銀 参加表明41か国に
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150329/k10010031601000.html

 中国が、アジアの途上国に向けたインフラ事業を請け負うためのアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立すると言い出し、世界各国に参加を求めていました。

 3月31日までに参加を表明すれば、創立メンバーとしての特典を与えるとの甘い言葉で参加を誘い、30日の時点で41カ国もの参加が決定しました。

 はじめは中国の思惑に警戒心を抱いていた世界各国でしたが、イギリスの参加表明をきかっけに参加国も増加しました。参加を表明したのは、ASEAN10ヶ国のほか、スリランカ、パキスタン、モンゴル、カザフスタン、ロシア、ブラジル、韓国、オーストラリアなどです。

 AIIB設立については、去年10月に習近平が東南アジアを訪問した際に提唱したもので、わずか数ヶ月で参加国を募集し、年内には運営スタートをさせると意気込んでいます。

 そもそも、米国主導の世界に対抗して中国主導の世界をつくるためにつくられたものであるため、最初から日米は蚊帳の外に置くつもりでした。実際、日米は参加表明していません。

 参加表明した41ヶ国のなかにはドイツ、フランス、イタリア、イギリスと欧州各国も名前を連ねますが、それらの国が参加した理由はアジアでのビジネスチャンスを逃すまいとの思惑だと言われています。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00289152.html

 しかし、やっかいな隣人と歴史を共に歩んできた日本はよく知っています。このやっかいな隣人の本性を。AIIBの問題点をわかりやすくまとめた記事を以下に紹介しましょう。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4566

「ビジョンもガバナンスもなき実態」とタイトルにもありますが、まさに大義さえ打ち出すことができないのです。インフラというのは、人々がより快適な生活を送れるために整備するものであり、インフラ整備と貧困対策とは表裏一体です。

 しかし、AIIBは設立の段階で「貧困対策はアジア開発銀行に任せる」として、インフラ建設だけを請け負うようなことを言っています。要するに、中国の影響力拡大と投資で儲けることが主眼だということです。そこがアジア開発銀行などとは異なる点です。

 しかし、経済とはそうして切り離して考えられるものではありません。インフラ建設、経済効果、貧困対策、環境問題、雇用問題など、あらゆる問題が関係しているのです。そのため、IMF、世界銀行、アジア開発銀行などは、ひとつひとつの案件にじっくり時間をかけて各方面への影響や効果を調査してから実行に移してきました。

 AIIBはそれを「時間がかかりすぎ」だと否定しています。あらゆる問題を考慮して十分に検討されることなく事業を行ってしまえば、後々その地域の人々を苦しめることになる可能性も大きくなります。特にインフラ事業は環境への影響が大きいですし、環境保護という観点に立たなければ、地球は疲弊する一方です。

 また、国際機関による投資ともなれば、透明性が重視されます。そもそもインフラ整備事業というものは、汚職や賄賂の温床です。投資している国の顔がはっきりとしない資金ともなれば、それにむらがるハエがどれほど多いか想像がつきます。

 そこで透明性を確保しなければ、資金のほとんどはどこかに消えてなくなり、残ったわずかな資金で結果的に粗悪な工事が行われ、危険な橋や道路が建設されることによって人々の生命が危険にさらされます。

 通常、インフラ事業は現地の雇用問題も解決できることで歓迎されますが、中国は違います。中国企業は地球の裏側であろうと、中国人労働者をひきつれていって工事をするため、現地の雇用に何も貢献しないばかりか、現地人を奴隷のようにこき使ったり、現地の風紀を乱しトラブルメーカーとなっています。実際、アフリカでは中国に対する嫌悪感が広がっています。
http://www.recordchina.co.jp/a72726.html
http://news.searchina.net/id/1524037?page=1

 目下、中国は海洋強国と偉大なる復興の夢を目指して東シナ海から南シナ海、さらに太平洋をアメリカと二分したいと考えています。また、宇宙の開拓、開発を公言し、資源開発についても声を挙げています。海のシルクロードでは、インド洋の領海を争っています。

 AIIBについての中国の思惑は、陸と海のシルクロードを手中に収め世界の主導権を握ると同時に、各国から集めた資金をもとに国外での工事を行うことで行き詰まっている国内経済を打開しようというものです。

 中国は、AIIBを国内の経済浮揚と勢力拡大のための橋頭堡として利用しようと目論んでいるのは明らかです。

 中国はこれまで世界各地で、安い価格で公共事業を落札する一方、実際に工事が始まれば、採算がとれないからいいかげんな工事をする、ということを行ってきました。

 AIIBにおいても、同様の行為が行われる可能性は大きいといえます。しかしこれは、これまで世界銀行やアジア開発銀行などが主導して培ってきた世界の秩序とモラルを破壊するモラル・ハザード行為です。

 そもそも、自国の環境問題や雇用問題を放置して、自国のインフラさえままならない中国が、途上国のために何を提言できるというのでしょうか。

 AIIBに参加した国々は、アジアでのビジネスチャンスを振りかざす中国の甘い言葉に踊らされている国もあれば、利益を横からかすめ取ろうと虎視眈々と狙っている国もあるでしょう。

 しかし、習近平が言うように「銀行は開放的なものだ」としても、自前のノウハウが何もない中国がどうやって世界各国をまとめるのか。各国の理事を置かずに事業は事後承認で、価値観も投資基準も投資目的も異なる各国が納得いく投資ができるのか。きわめて疑問です。

 確かにアジアでのビジネスチャンスは魅力です。しかし、中国に到底、各国の利害や思惑を調整しながら資金を調達する能力があるとは、どうしても思えません。

 むしろ、これからアジアの途上国を舞台に環境破壊、経済混乱、雇用トラブル、モラルハザードを起こすのは目に見えています。中国には世界のため、人類のため、などという理念は毛頭ありません。これ以上、世界に迷惑をかけるのはやめて欲しいものです。

 貧困にあえいでいる人々はたくさんいます。貧困によって失われる小さな生命が世界には多くあります。貧困によって起こる犯罪も多くあります。

 紛争や内乱を止めるためには、貧困削減を目的としたインフラ整備という手段が取られるべきでしょう。1日1ドルを消費できない絶対貧困層を少しでも削減しなければ、悲劇も犯罪も減りません。

 中国がこうしたことに一切、目を向けていません。むしろAIIBは、投資熱を煽るだけ煽り、周辺国に無用かつ手抜き工事だらけのインフラを輸出するだけになるのではないでしょうか。それは、現在の中国国内で起きていることそのままです。

 AIIBが問題なのは、不透明なだけでなく、中国主導ならではの不正とずさんさもあります。歴史をひもとけば、中国共産党のみならず中国国民党による南京、広州、武漢、重慶、台北政府のすべてが同様の問題を抱えていました。

 それは、中国の伝統文化から生まれたものです。だから国共内戦後の蒋介石をはじめとする四大家族も腐敗にまみれていました。近年、?小平一族が10兆円以上の大金を海外へ持ち逃げしたことが発覚したほか、周永康は1.5兆円の不正を働いていました。曽慶紅の長兄は、すでに1.2兆円を持ってオーストラリアに逃げています。

 しかも中国政府は、台湾の中国国民党による国営企業の特権事業の手段に学んで、共産党による党営(国営)企業を肥えさせています。

 結局AIIBも、中国の一部の特権階級が世界を揺さぶり、途上国を食い物にするものになる可能性が高いと言えるでしょう。

 繰り返しますが、アジア各国最大の問題は、貧富格差の問題であり、インフラ整備ではありません。

 そうしたことから考えれば、やはりAIIBでは周辺国や参加諸国が食いものにされるのは避けられないでしょう。利用されるだけで何のメリットも得られないのですから、そんなところには参加しないのが得策というものです。

黄文雄の歴史から読み解くアジアの未来2015年3月31日号(第44号)転載
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